脳科学

腸内に寄生する微生物の働き
40億年前に地球上に原始細胞(バクテリア)が出現しました。
10億年前には多細胞生物が出現しました。
30万年前から現代にかけて、人類の出現と科学や文化の発展がありました。

40億年の生命の歴史のほんの一点に過ぎない人類の歴史の中だけで、この複雑な生命体が進化を遂げたとするとは考えにくいことです。 初期は、単細胞微生物が長い歴史のなかで進化し、しかもそれは海中の藻や地上の植物との共存関係の中で進化し続け、やがて多細胞動物との共生関係の中で急速に進化したのです。しかもその進化は人類(宿主)との共生の中で、宿主自体の神経系・脳とのコミュニケーションを図りながら、宿主自体の進化を応援したのです。

「寄生と共生」をもっと具体的に説明すると、寄生は宿主の利益にかなうものでなければ、淘汰されてしまいます。微生物は宿主とのコミニュケーション能力を身につけ、宿主の生存に寄与していたのです。反対に時には宿主の生存を脅かす働きもしました。トキソプラズマや狂犬病ウイルスなどがそうです。宿主は自然淘汰(病の発生による死滅)と云う反撃の手段をもって不利益な遺伝子を淘汰しました。

微生物の生存本能が、自然選択による試行錯誤を長期にわたってくり返すことによって、微生物にシグナル分子とレセプター分子の能力を獲得させたのです。シグナル分子は腸管の神経系に働きかけ、ホルモンや消化管ペプチド・サイトカインなど神経伝達物質に似た働きをします。さらに神経系統の軸索を通じ脳に影響を与えます。少なくとも内臓感覚・筋肉感覚が関与する意識に深くかかわっていると考えられます。

近年腸内環境が健康に与える影響がたびたび話題に上ります。宿主の免疫力・遺伝子伝達にも大きくかかわっていると云う研究報告もあります。また、胎児が出産時母体から受け取る腸内細菌フローラが一生の健康に大きくかかわることが実証されております。

生命の歴史、グリア細胞の不思議

脳細胞は1000億個余あると云われます。この内、記憶だとか思考に関係するニューロンは約4分の1の約250億個です。残りが最近注目されているグリア細胞です。このグリア細胞はニューロンの修復・ごみ処理・血液からの維持要素の供給などを受け持ちます。

ところが以前から分かっていた神経系統への伝達経路にも関与して、慢性的痛みの元凶だとも言われております。更に情報伝達機能がニューロンと全く異なり電気的に探索できるものではありません。以前にもお伝えしたことがあると思いますが軸索細胞の化学的な変化によって発生する電荷を次の細胞に伝達するという原始的やり方に基づいております。しかし伝達スピードを上げるための絶縁など驚くべき巧妙な機能を併せ持っているのです。

このような万能性から最近の研究ではニューロンが死滅した場合これを短期的に補完する機能が発見されております。

痛みの元凶とニューロンを補佐する機能を併せ持つ、ある場面では悪玉でありある場面では善玉だと云う不思議な存在なのです。

精神障害や認知症にも深く関与し、慢性的痛みの発生に関与するグリア細胞の機序は私たちの健康に重要な役割を持ち、今後の研究の発展に重大な関心を持つ必要があります。

旧来の脳科学の研究はニューロンの研究に重点が置かれグリア細胞には注目が向けられておりませんでした。これはニューロンのはたらきが電気的にとらえやすいことからきていたのでしょう。グリアの働きは多岐にわたり、単純に電気的にとらえられるものではありません。

グリア細胞にはアストログリア、オリゴデンドログリア、ミクログリアがそれぞれの役割を分担しております。神経軸索は電気信号が導線を伝わるような機能ではなく、活動電位と云って神経軸索の表面にある「電位依存性ナトリウムイオンチャンネル」が開く際に神経軸索の内側に向けて電位変化が生じます。その結果、それが刺激になり、変化したすぐ隣に存在する別の「電位依存性ナトリウムイオンチャンネル」が開きます。そうすると、またその範囲に電位変化が生じて、それが次々と隣へ伝わります。

この様な電位伝達は効率は悪くスピードが遅い筈です。ところがオリゴデンドログリアは軸索に巻き付き、巧みな絶縁機能を発揮し、アストログリアと協同して新幹線並の伝達速度を実現するのです。

ミクログリアはニューロンの廃棄物処理と修復機能を受け持ち、アストログリアは血管から脳細胞に養分を供給する役割を演じているのです。すなわち、グリア細胞は原始からニューロンの高度な脳の働きに至る橋渡しをすると同時に、自己の機能向上も果たしているのです。グリア細胞は人類以前の進化過程でも動物に備わった原始の細胞なのです。

以上を踏まえるとグリア細胞が生命力に溢れていることが理解できるでしょう。マウスの実験では脳が虚血状態に陥ってもグリア細胞は数時間は生き残ることが証明されております。グリア細胞は虚血条件に対して格段に高い抵抗性を持ち、培養常態では酸素もブドウ糖も無くても10時間位は平気で生き続けられるのです。

生命の歴史は自然の法則を物語っている
以上、腸内細菌とグリア細胞について述べましたが、いずれも原始につながっている点においては共通です。従って生命の歴史を知ることは 人間の生き方や基本的な考え方の重要なヒントになるのではないかと考ております。