政治

1993年に発表されたサミエル・P・ハンチントンの「文明の衝突」が今、注目をされています。
何故だろうと疑問を持って、本棚の中から古く変色した表紙を探し出し(20年前の夏に傍線を引いた部分を)拾い読みして、記憶が若干よみがえったところです。

今から26年前のハンチントンの予測が本当に当たっているのか疑問を持ちながら、探ってみた結果、その慧眼に驚きを覚えたのです。
当然当たっているところとそうでない部分はあることは承知の上で、この論文が現代への示唆となる部分だけを拾い上げてご紹介いたします。

偶然、白井聡氏の「永続敗戦論」を読み始めたところなので、それとの関連性も述べてみたいと思います。

ハンチントンの論文にはは次のように表現されています。

日本の哲学者梅原猛が示唆するには「マルクス主義が全く失敗に終わったこと—そしてソ連が劇的な解体を遂げたことは、近代性の主流だった西欧リベラリズムが崩壊する前兆に過ぎない。マルクス主義に関わる選択肢となり、歴史のにおける支配的なイデオロギーになるどころか、リベラリズムは次に倒れるドミノになるだろう」と云う。

世界中の国の人々が自分たちの特性を文化によって規定している時代にあっって文化的な核を持たず政治的心情だけで規定された社会に安住できる場所があるだろうか? 政治的原則は、永続的な社会を築く基礎としては不安定である。

文化が重要な意味を持つ文明世界にあって、アメリカはイデオロギーが意味を持っていた消えゆく西欧の異常な残存物に過ぎなくなるかもしれない。政治的心情と西欧文明を拒否することは、われわれが知っていたアメリカ合衆国の終焉を意味する。(以上原文のまま引用)

■ 更に、世界は東洋文明と西欧文明の衝突が起こり、東洋の覇権は中国に移り、世界の覇権国だったアメリカとの戦いが避けられないと予測しています。しかもその戦いは東洋文明を代表する中国の勝利に終わるだろうと予測しているのです。

加えて云えば、意外なことに日本は中国側に加担せざるを得ない立場だろうとも記しています。つまりは、アメリカの政治イデオロギーが世界覇権の座から転落すると予測しているのです。

「文明の衝突」の将来予測はこれだけではありません。イスラム圏との深刻な対立、先進国への移民が争点となり国内の分裂を招くこと、世界の多極化・覇権の変動など具体的に現在の状況を言い当てています。

■ 今年5月末、欧米の超エリートたちが集まって、ビルダーバーグ会議がモントリオールで開催されました。この会議は秘密会議であっったため報道されることはなかったのですが、米ポンペイオ国務長官の宣言があまりにも戦闘的であったため、不満を持った出席者からその発言が漏れてきたのです。

ポンペイオ国務長官は次のように発言したのです。「米政府は、対中100年戦争を決定たことを宣言し同盟国とともに戦う」という内容でした。
もちろん貿易戦争を前提とした冷戦にとどまることが期待されますが、「戦い」の内容については伝えられていません。昨年10月にはペンス副大統領が同様の発言をし、報道機関は単なる脅しではないかと受け流していたのですが、いよいよ本気で長期戦を覚悟したのでしょう。しかし、100年はオーバーでせいぜい5年~10年のことではないかと観測されています。(田中宇の国際ニュース解説より)

■ 一方白井聡氏の「永久敗戦論」では次のように解説されております。第2次世界大戦で日本は負けているのに負けた事実を認めたくないので、日本人はそのことを曖昧にする。これが結果として永久的に負け続けていることになるのです。更に、米ソ冷戦時代には日本が対ソ防衛ラインとして重要な位置を占めることになったので日本はアメリカから特に優遇されました。つまりお世話になったのです。感謝が愛になり対米従属が当然だという雰囲気が作り出されたのです。

問題は冷戦が終わってもこの傾向が変えられなかったことです。日米関係に変化がなければこの傾向は変わりませんが、トランプ大統領が貿易戦争を同盟国にまで拡大し日本の国益を損なう事態が現れると、日本政府は今までになかった窮地に直面しました。

■ 特に米中貿易戦争のあおりを受け、自国の貿易に損失が生じた場合対米従属を捨てざるを得ない状況に追い込まれます。ハンチントンはこの状況を見事に言い当て、日本は対米従属から離れて、中国圏あるいは東洋文化圏に逃げ込むと予測しているのです。

今、日本は貿易高がアメリカを抜き中国が第一の貿易相手国となっていることから、日本政府は財界からは対中貿易が犠牲にならないよう強く要望を受け、他方アメリカとの関係・対米従属をやめるかどうか選択を迫られ、板挟みの状況となっているのです。

■ サミエル・ハンチントンの「文明の衝突」は、経済的理由ばかりでなく、明白に文明の同一性からも日本は中国圏にいかざるを得ないことを示唆しております。ハンチントンがもし現在の米中関係を知ったなら、更にこの示唆が強くなり断言に至るだろうと云うのがこの本を読んだ感想です。26年前にハンチントンがこんな予測をしたことは、決して占星術的予測ではなく、文明の衝突が世界の覇権を変えるという科学的な分析が背景にあったからです。

日本人には中国嫌いの風潮が根付いていることは承知しておりますが、ハンチントンの時代には中国に対して好きも嫌いもなかったのです。当時は中国が世界の脅威になるほど強力でなかったからです。世界の覇権が激動する現在においては、判断基準を「文明の衝突」に移す必要性を強く感じます。

そのうえで現在の状況を見れば、国の衰退を防ぐためにも、「対米従属が唯一のレゾンデートルではなくなってきていること」を自覚しなければなりません。