未来

本文末尾の「都道府県財政力指数」(総務省2019年発表)をご覧いただければ地方の疲弊状況が実感できるのではないかと思います。今回は前半でAIや5Gについては日本の得意分野である応用技術を重要視すること、後半では林業と農業について最新技術をご紹介しました。

AIについては万能ではなく用途を特定し,それぞれの用途別に専用のAIが開発されるようになります。
例えば、自動運転のAIはトヨタなどで専用デバイスの開発が行われていますが、これを他の分野で使うことはできません。ニューロチップの開発も進んではいるものの、これも万能ではありません。

現在の自動運転のレベルは5段階の3段階目に当たります。
レベル3は高速道路で運転者が運転席に座り、万一機械で対応できない道路条件の異変があった場合、いつでも対処できることが求められます。ドイツでは高速道路に限定して認可され、販売開始されております。日本では、機械と運転者の責任分担、事故の責任や保険の問題など法整備を検討している段階です。

自動運転はカメラによる画像認識の技術とその他のセンサーの技術の組み合わせになりますが、レベル5(無人運転)になりますと人間の複雑な中枢神経の反応をトレースしなければなりませんので、ニューロコンピュータの領域だけでは解決できない事が懸念されます。

ニューロンは電気信号としてトレースできるかもしれませんが、感覚系と運動系の神経が関与する非ニューロンの信号伝達にはグリア細胞の働きや血液中の伝達物質が関わっております。つまり視覚・聴覚・触覚などの信号を視床下部で受け取りニューロンにつなげる過程、同時にその判断を運動に結び付ける中枢神経の働きは電気信号とは異なる複雑な構造になっております。細胞の発するカリウムイオンの電荷が次の細胞に引き継がれる仕組みはグリア細胞による導管作用により有効となります。また、グリア細胞はニューロンの働きを助ける役割を持つものなど数種があり、多様な機能を役割分担しております。グリアは生命の歴史で古い発展過程からの産物です。これだけはAIに置き換えることが困難な部分です。結論を言えば自動運転の第5レベルの完全無人化はここ10年では難しいと思われます。従ってAIについては応用技術と特定用途別の開発に力を注ぐべきです。

次に5Gですが、5Gを一つの技術として捉えるのは無理があると思います。つまり3~4ギガ帯と28ギガ帯を同一視することは間違いです。用途も特性も大きな違いがあることを知らなければなりません。スイスで5Gが人体に有害であると認定されたとするニュースが最近あったように聞いておりますが、これは28ギガ帯などのビームフォーミングについてではないかと思われます。

ご承知に通り5Gの特徴は高速・低遅延・広帯域です。毎秒ギガビットの高速、従来の10分の1の低遅延、都市部などに設置する広帯域用の基地局は一平方キロ当たり最大百万台の端末を収容できるなど画期的な性能を発揮します。KDDI、ソフトバンクが2020年3月から3.7ギガ帯のサービスを開始します。28ギガ帯はそれに遅れて商用化に入ります。その用途は主として3~4ギガ帯がスマートフォンの一般ユーザー向け、28ギガ帯は企業・医療・建設・交通など特殊用途向けとなっております。NTTドコモはビームフォーミングサービスなど基地局アンテナの新設を伴う用途を狙っているようです。3~4ギガ帯は4Gの既設アンテナ基地を利用できます。

5Gにおける米中の競争は、アメリカが軍事用から出発したため、商用では高ギガ帯を使わざるをえないデメリットを負っております。中国は5G関係の特許数が世界一で低ギガ帯に注力するようです。日本は両者をたてた立場をとっております。

ここまでの報告ではAI、5Gとも日本は基幹技術において立ち遅れているものの、応用技術では決して希望がないわけではありません。両技術とも制約があるからこそ応用技術の出番が大きく開けております。

先端技術で明るい話題を求めた結果ぜひお伝えしたい情報にたどり着きました。それはエネルギーの地産地消、農業と林業の新分野です。

先ず林業からお話しします。日本の国土の約3分の2は森林で、その4割は人工林です。この膨大な人工林には杉林が多く存在します。杉材は硬さに欠けているため、建築の基幹材料には向いておりません。従って輸入材料に頼るしかなかったのです。

政治的にも林業は軽視され続けてきました。ここにきて、杉材を高級木材化する技術が進んできました。ケボニー化と云って、トウモロコシやサトウキビのような自然素材を原料としたフルフリルアルコールを樹材に含侵させ高品質木材に改質する技術です。京都府立大と奈良県森林技術センターがノルウエーのケボニー社の技術を導入して開発したものです。日本固有の種であるスギはケボニー化に最も適しています。

このほか帝人は炭素繊維を建築用集成材に組み合わせたAFRWと云う技術を開発しました。

以上のような技術開発は建設業に取り入れられ実用化の段階に入っております。大野建設は中規模高層木造住宅の受注を進めております。将来的には住友林業が「W350計画」と云う名称で、木材と鋼材の比率が10対1の超高層ビル(地上70階建て)を計画しております。このような夢の技術が20年内には実現する可能性があるのです。

次に食料自給率ですが、日本のカロリーベースの自給率がついに40%を割り38%まで落ち込んだのです。ちなみに先進国で自給率が100%以上の国はアメリカとフランスです。他の西欧諸国も60%以上。韓国と日本が最低ですが日本は韓国の43%にも及びません。
食料安保の面から言えばこのような状況下、今回のような新型コロナウイルスの流行で万一食料輸入が絶たれた場合打つ手がないでしょう。

次に農業ですが、元農水省官僚の武本俊彦氏の話を引用します。

自由貿易協定による食料輸入価格の低下は、老齢化による農作放棄地の増加に更なる追い打ちをかけ、空き屋問題と共に地方経済に多大のダメージを与える。

対策としては次の4項目を提唱する。

1.食の安全で輸入食料に対する優位性を保つ
2.農家の所得補償
3.6次産業化
4.エネルギー兼業

輸入食料が安全性を犠牲にした政治決着の結果であることに対し、国産は安全性を売り物とし、競争力をつける。そのため加工食品のトレーサビリティーが重視される。

夫婦共稼ぎや単身世帯の増加に対応し、生鮮食品の3割増しくらいは加工食品の需要が増えると予測する。生産農家自体が加工食品にのり出す6次産業化と同時に、加工工場や最終販売業者が委託栽培の拡大に注力することが考えられる。

また、エネルギー問題と農業問題のリンク、「市民エネルギー千葉」にみられるようなエネルギーの地産地消が拡大することが予測される。太陽光発電の「ブドウ棚方式」は農作と発電を両立させる理想的兼業化だ。当然土地の有効利用になる。

武本俊彦氏

(エネルギーの地産地消=マイクログリッドについては過去の投稿に詳細報告あり)

以上林業・農業の新技術との関連はすべて大都会中心から地方分散化の政策転換を伴います。次世代技術革新はトップダウンから、管理体系の分散化への移行を意味し、必然的に情報の集中から分散に変革する。トレーサビリティーはブロックチェーンと結びつき、この面からも分散管理を助長する結果をもたらすでしょう。

地方財政の破綻が迫っている現状を見れば、新技術を権力集中から遠ざけ、地方復権に寄与させることの必要性を強く感ずる次第です。

下の財政力指数は1.0以上が黒字、未満が赤字です。東京都以外がすべて赤字と云うことは驚きです。しかし地方債や借入の大小も考慮する必要があるので、大ざっぱに云って0.7以上は健全だと云っても間違いないでしょう。
平均値が0.5程度なので、0.7未満の道府県は要注意です。当然平均値以下なら地方交付金に長期にわたり依存する不健全な自治体と云う事になります。紙面の関係でベスト5とワースト5だけの表示となりました。

都道府県財政力指数(総務省平成29年地方公共団体の主要財政指標より)

1~5=ベスト5、43~47=ワースト5

尚次回は、新型コロナウイルスの急激な悪化により再び関連情報のご報告に戻らざるを得なくなりました。身を守るため極力関連情報を集めるつもりです。

未来

これは、経済同友会の著書の題名です。小林喜光代表幹事監修となっております。
最初に断っておきますが、経営者団体なので当然そのポジショントークが気がかりとなる部分もあります。例えば「今だけカネだけ自分だけ」のフレーズで「カネだけ」は省略されて「今さえ良ければ、自分さえ良ければ」と云う表現になっています。思わず吹き出してしまいました。
財政破綻の手当が一刻の猶予もならないと云う危機意識は良いが、そのためには消費税をヨーロッパ並みの20%以上に引き上げるべきだと云う主張には無条件で賛同することはできません。

以上のマイナス面にも拘らず、数多くの有益な分析や対策が含まれていることに注目しなければなりません。目次とは別に危機感の根拠(現状分析)、経済同友会が策定した「日本が目指すべき社会像についての提言Japan2.0 最適化社会の設計ーモノからコト、そしてココロへー」について以下ご紹介します。

「日本は今岐路に立っている」がサブタイトルだが、いやかってほとんど経験したことのないレベルの危機に直面していると言ったほうが正確だろう。これは敗戦により焦土と化した70余年前に匹敵する困難であり、更には「ひたすら経済成長を目指す」と云う目標が描けた往事とは、質の異なるクライシスである。

残念ながら、そうした危機が、政治家や官僚、経済人、そして国民に広く共有されていない。そのことこそが危機の本質なのだ。

第一に、日本の財政はすでに1000兆円を超える公的債務を積み上げてしまい、破綻の危機にある。一方毎年の予算規模はおよそ100兆円で歳入はその6割、残りの4割が国の借金だ。収入の10倍の借金を抱え、さらにそれを積み増しているのが、今の日本と云う国だ。家庭ならとっくに破産、企業なら倒産していてもおかしくない。

第二に、急速に進行する少子化、高齢化の問題がある。この人口構造の激変が財政赤字の一因となっているばかりでなく、労働力の減少により経済成長の鈍化を招いている。

第三に、格差や貧困の拡大、民族や宗教の対立、水や食料の不足、資源・エネルギーの枯渇、そして地球規模での気候変動と云ったグローバルアジェンダの存在である。言うまでもなく、どれもこれも対岸の火事で済まされるテーマではない。

この他、産業の衰退も著しく、平成元年、ジャパンアズナンバーワンと呼ばれたあの時代、世界の株式時価総額比較で日本の企業は上位5社を独占し10位までに7社がランクインされていた。その後2019年に至っては1社も入っていないどころか日本のトップ企業であるトヨタでさえ35位に低落している惨憺たる状況だ。

これは新分野の半導体、液晶ディスプレイ、バイオなどが国際競争に取り残され、拡大していくデータ・セントリック科学分野でもGAFA(グーグル・アップル・フェースブック・アマソン)に巨大市場を独占され、オンラインマーケットを展開するアリババやJD.comのような中国企業にさえ負けている状況から生じている。

次世代の通信技術5Gではすでに中国のファーウエーが世界のトップに躍り出ている。

世界の潮流はグローバル化、デジタル化、ソーシャル化、この三っつのうねりが社会の仕組みをドラスティックに変えつつある。「日本の危機」は直視すればするほど、それは複雑で根が深く、もはや対症療法で改善が見込める段階でないことが分かる。
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本書は全体を通してあらゆる角度から危機感を語っているのですが、処方箋も明確に示しているのが特徴です。それは「Japan2.0」と称して多角的に提言がなされています。考え方の基本は、失われた持続性と多様性の回復です。

「Japan2.0」は起点を2021年として「持続可能な社会」の実現にめどをつけるのが2045年としています。

現代の国家価値の評価は三次元で捉えれば理解しやすい。これが我々経済同友会の結論である。そのモデルはX軸=経済の豊かさの実現、Y軸=イノベーションによる未来の開拓、Z軸=社会の持続可能性の確保ーーーと云う三つの軸を設定しそれぞれ具体策を提言しています。

具体策についてはかなりのボリュームなのでここでは省略します。最初に断ったこの提言のマイナス面に戻りますが、この提言が経営者目線であるにしても、次の問題提起には注目せざるをえません。

「低成長が長引くことに伴う中間層の減少により、政党政治における中道派も勢いを失った。民衆とエリートとの間には、超えがたい壁が生じることになった。社会の二極化に対し、折り合いをつけながら現実的で効果のある解決策を見出し、断絶を修復していく役割を、政府や議会は果たせなくなっている」。

この問題提起は非常に重要で経済アナリストの藤原直哉氏も同じような問題意識をもっておられる。
日本の社会は戦後のイデオロギー対立から、ネトウヨと呼ばれるような変則的右翼とこれに噛み付くリベラル左派との空中戦ばかりが目立ち、野党は安倍政権の終わりなき嘘と誤魔化しに対しもぐら叩きに始終する事態が現れている。つまり、危機的原状に目を向けず、基本に戻り本質を突くような議論が殆どなされていない。

つまり中間が存在せず本質論が出にくくなっているのです。リベラル左派の激烈な批判はそれなりに効果があるものの、国民に訴える力を失い自分たちの仲間で固まって広がりを失っているのです。その原因は正しい危機意識に基づく正しい処方箋が描けていないことに起因しています。

ネトウヨが受け入れられないと同様にリベラル左派の喚きも国民に理解されないのは当然です。「消費税ゼロ」「カネを刷りまくって福祉に当てろ」など論外です。不真面目以外の何ものでもありません。

消費税については逆進性が強い面を指摘して、これ以上の値上げに反対するのは当然だとしても、現在の財政破綻の状況に危機感をもち、後世につけを回す不道徳を考えれば、経済同友会の20%論も現状認識としては無視する訳にはいかないでしょう。もちろんその前にやるべきことがあることを踏まえて別の対策を提言する義務があるのです。

経済同友会の「危機感なき茹でガエル日本」は警告の書として貴重な情報を与えてくれました。是非読まれることをお勧めします。