政治

「惨事便乗型資本主義」とはナオミ・クライアンがショック・ドクトリンで厳しく批判し続けたテーマだ。「Noでは足りない」では、Yesにも言及している。この本を読めば分かることだが、この「Yes」はもちろん惨事便乗型資本主義を是認するものではなく、たたかい方の巾を広げることに狙いがあるのだ。

ショックドクトリンの下巻はアジア危機の惨事便乗から始まり、ベネズエラのチャベスが協同組合化を最優先課題としてラテンアメリカ各国が地域統合の絆を深め惨事便乗勢力から身を守る、つまりはショック療法そのものから身を守るこの考え方が引き継がれている。

「Noでは足りない」では「Yes」を更に強化して、格差解消のたたかい、政党に依存せず市民自らが繋がり合い惨事便乗勢力にスキを与えない新しいたたかい方を紹介している。

トランプについての評価はアメリカ国内と日本では大きな差異が認められる。ナオミ・クライアンはバニー・サンダースへの支持に表される反トランプの感情が特に激しい。サンダースは自らを「私は社会主義者だ」と宣言している。アメリカでは「社会主義者」は禁句となっている。あえてそれに挑戦するほど彼の格差絶滅の熱意はすごい。
ナオミ・クライアンはヒラリー・クリントンがカネの力で彼を潰しにかかっていなければ、サンダースがトランプに勝っていただろうと述べている。

ナオミ・クライアンはアメリカ社会ではトランプは金持ちの味方で、必ず格差の拡大が一層ひどくなるだろうと予測している。化石燃料企業の利益代表である、そのため環境破壊を容認する姿勢、人種差別、女性蔑視、これらはノーの一部に過ぎない。

環境破壊資本主義と対峙するテーマの一つは、現在の私達の社会は際限なく取り、採取・搾取すること、最大限に収奪することに基づくシステムだと云うことだった。現行経済は労働者から際限なく搾取し、時間枠をますます厳しくする一方で、労働者には益々多くのことを求めている。ところが雇用者はその見返りとしてますます不安定な雇用と、ますます低い賃金しか提供していない。多くのコミニティーも同様の限界に追い込まれている。

目先の富や利益に依存するシステムは、人間と地球を限界まで採掘できる資源として、あるいは海の底や刑務所の独房のような、はるか遠くの目の届かないところへ捨てるゴミとして扱うことを、構造的に求められていると云うことだ。
これと明確な対照をなすのは、人々が自らの望む世界について語るとき、「ケア」とか「ケアテイキング」と云う言葉がくり返し出てくることだった。土地をケアする、地球の生命システムをケアする、そしてお互いをケアする。

そして討論する中から、すべてがそこに収まる一つの枠組みが浮かび上がってきた。地球からも人間同士の間でも際限なく「取る」ことに基づくシステムから、「ケアする」ことに基づく文化へ移行する必要性である。ケアテイキングとは、何かを取るときにはきちんと配慮をし、お返しをすると云う原則だ。それは一人ひとりが大切にされるシステムであり、そこでは人間や自然が使い捨てであるかのように扱われることはない。

以上はいかにも理想論のように聞こえるかもしれないが、ナオミ・クライアンは市民運動の草案としてこれをまとめ政策目標のリストの作成までとりかかっている。「私たちが描き出そうとしてきたことの核心はこの価値観の転換であり、倫理観の転換であったことに私たちは気づいたののである」と述べている。

カナダ発のこの運動は世界に広がり多くの賛同者を集めている。政党に頼るだけでは無理だとし、サンダースさえ限界があると判断している彼女の本気度はすごいと思う。世紀の知の巨人ノーム・チョムスキーは必読書と指定し、ビル・マッキベン(米環境活動家)も推薦している。マイケル・ムーア(華氏119の上映でトランプ批判爆裂)やボブ・ウッドワード(「FEAR」はトランプの暴挙の暴露本として最近話題になっている)はトランプ批判では「No」を強調している点ではナオミ・クライアンに劣ることはない。

日本ではトランプ批判がアメリカ国内には及ばない。これは情報が十分に伝わらないためとも思われる。トランプ政権のメンバーを見ればナオミ・クライアンのトランプ批判が的外れではないことが納得できるだろう。エクソンモービルの子会社=ティラーソンはじめ一番わかり易い人事は副大統領のマイク・ペンスに現れている。

「トランプの副大統領としてマイク・ペンスの名前が発表されたとき、この名前はどこかで聞いたことがあると思い、次の瞬間思い出した。ペンスは私が取材したなかでもとりわけ衝撃的な話の主役だった。
ハリケーン・カトリーナの直撃でニューオーリンスが洪水に見舞われた後に起きた、惨事便乗型資本主義による「争奪戦」のことである。人間の苦しみから暴利をむさぼったマイク・ペンスの行為はまさに背筋が凍るようなものであり振り返って見るに値する。元インデアナ州知事の災害復興においても極端な白人優先の人種差別を実行したのだ。インフラの脆弱性が被害の大きな要因であったにもかかわらず気象学者の提言を無視してペンスとRSCはメキシコ湾岸の環境規制を撤廃しアメリカ国内における新規石油精製施設の建設などにゴーサインを出したのだ。ペンスたち「自由市場」のセールスマンは、この先もっと多くのカトリーナの襲来を確実にすることを断行しようとしていたのである。
そして今、マイク・ペンスはこのビジョンを全米に拡大する職についている。」ナオミ・クライアンがこのように警告したとおり今トランプ政権でははじめての洪水が訪れようとしている。

トランプはツイッターで昨日次のメッセージを伝えている
「私のスタッフから今聞いたところによると、今回の暴風雨は長年の間に東海岸に来た中でも最強クラスらしい それに、南北カロライナとバージニアへの直撃コースだそうだ 準備してよく気をつけ、安全にしていていただきたい」

マイク・ペンスがどのような対応をするか注目しておきたい。

ナオミ・クライアンがこの本の最後に「Yes」の部分に言及した注目すべきメッセージがある。「リープ・マニフェスト」がそれだ。副題は「地球と人間へのケアに基づいた国を創るために」となっている。この全文を紹介するのは困難だがここを読めば「Noだけでは足りない」の意味、つまりトランプ批判の後の建設的考えが浮かび上がる。要点は先に述べた通りだが、格差拡大と環境破壊は同根であり、そこには必ず
惨事便乗型資本主義や環境破壊資本主義が介在する。そしてそこには非人間性や拝金主義が隠されている。つまり地球環境や人類に対する犯罪者が存在するのだ。この犯罪者たちと対峙した後に「Yes」があることがわかるはずだ。

日本ではトランプを肯定的に捉える論調があることは十分承知している。トランプの行動が戦争屋やグローバル金融資本の追放につながるとの主張。つまり意図する、意図しないにかかわらず結果としてトランプの行動が世界におけるアメリカの覇権の後退と新秩序構築につながると云う論者の言葉も聞いておく必要がある。田中 宇氏や藤原直哉氏のメッセージがこれにあたる。

私はトランプが意図的・計画的に覇権放棄を行っているとは思わないが、世界は結果的にその方向に向かい、再編に動いているのは事実だろう。
「世界のことは自分で探索的に探さなくてはならない」「メインストリームのメディアが平気で嘘をつく時代だから」。要は、多様性を切り捨て一色に染め上げようとする勢力に対し対抗する知恵を持つべきだと云うことだ。格差拡大や環境破壊とたたかう方向についてはナオミ・クライアンも田中宇氏や藤原直哉氏も同じだ。リープは跳躍の意味だ。公的領域の破壊と劣化、特に環境破壊については待ったなし、猶予はほとんどないのだ。

ナオミ・クライアンの「Noでは足りない」は「リープ・マニフェスト」の運動で具体的な行動指針を示した点に意義がある。機会があればマニフェストの全文を紹介したい。日本でも市民運動には必ず役に立つに違いない。最近ニューヨーク・タイムス紙にもベストセラーとして推薦されたことを付記しておく。

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「ワールド・ウエルス・レポート」によれば日本は世界第2位の富裕層を抱える、世界有数の格差社会となっている。

世界有数のコンサルティング、テクノロジー&アウトソーシングサービスプロバイダーであるキャップジェミ二が、2017年に、発行した2017 World Wealth Report (WWR)が最近注目されている。

HNWI=high-net-worth individualとはなにか?
HNWIとは、個人富裕層:巨額(100万ドル以上)の金融資産を持つ個人のことだ。
「主な居住用不動産、収集品、消費財、および耐久消費財を除き、100万米ドル以上の投資可能資産を所有する者」である。米国のHNWI人口は528.5万人 と、316.2万人の日本、136.5万人のドイツをはるかに上回っている。(9月9日HNWI人口の単位に間違いが見つかり訂正しました。お詫びいたします)

HNWI人口が最も多い10カ国を見てみよう。各国・地域のHNWI人口から、富が世界中にまんべんなく分散されているのではなく、経済大国に集中していることが分かる。

10位 イタリア 27.4万人
9位 オーストラリア 27.8万人
8位 カナダ 37.7万人
7位 スイス 38.9万人
6位 英国 57.5万人
5位 フランス 62.9万人
4位 中国 125.6万人
3位 ドイツ 136.5万人
2位 日本 316.2万人
1位 米国 528.5万人

日本の富裕層が多いのが目立たないのは、アメリカのように金持ちを、成功者だとするような風潮がなく、富裕層自体がなるべく目立たないよう、ひっそりと隠れているからだとも云われる。その証拠に米国の富裕層は表に出て堂々と社会貢献や寄付をしているが、日本の富裕層は目立って寄付をすることが少ない(つまりケチだ)。

一方、日本の税制といえば年収500万のサラリーマンの税負担率より年収100億の金持ちの方が税負担率が低い。これは金持ちの収入の内20%の分離課税の比率が高いことが原因している。収入源をきめ細かく把握すればこの弊害は縮小するはずだ。消費税でこれをカバーするようなやりかたは「金持ち優遇」と言われても仕方がない。

格差解消のトレンドが世界の潮流となっている現実から日本は大きくかけ離れている。米国ではサンダース、英国ではコービン、フランスではメランションなど左派の活躍で、格差解消の闘いが激化し、民衆の参加を拡大している。

次回はアメリカのこうした状況をナオミ・クライアンの「Noでは足りない」と云う著書の紹介から、紐解いていきたい。中間選挙や次期大統領選にも多大な影響があるので、関心を持つ必要がある。日本の市民運動にとっても参考になる点が多くある。