社会

この本は取材・翻訳・監修を行った編者がジム・ロジャーズにインタービューした記録でもある。従って、既著作との重複があったり、編者の主観が入ったりする面は否定できない。

しかし、それ以上にインタービューである特徴からジム・ロジャーズの本音が出ており、率直に語っている面は評価に値する。

これを読んで一番に感じたことは、この警告は日本の野党が云うべきことが多く含まれ、アベノミクスの批判など投資家の口から出てくるのは意外であった。

一言一句重要な問題を提起しているのだが、忙しい方たちにむけ、私が重要な提言だと感じたところをピックアップしてお伝えする。以下はカッコ内がジム・ロジャーズの発言で、カッコ外は私のコメントだ。

「日本株をすべて手放したのは、2018年秋のことだった。予想とおり私が日本株を買った当時よりも株価は値上がりし、利益を得ることが出来た。そして今は株であれ通貨であれ、日本に関連する資産は何も持ってはいないし、この先買う予定もない。日本経済を破壊するアベノミクスが続き、人口減少問題を解決できない限り、この判断を変えることはないだろう」

総務省の人口推計によれば、あと10年で562万人(兵庫県の人口と同じくらい)減少、あと20年で1350万人(東京都の人口と同じくらい)減少、あと30年で2246万人(近畿地方の人口と同じくらい)減少する。一方、国立人口問題研究所の推計によれば、高齢者(65歳以上)人口は2042年の3935万人まで増え続けそこからやっと減少に転じている。このことは医療費や介護費が跳ね上がることを意味する。
中でも現役世代の生産年齢人口減少のペースは著しく速い。2018年から2025年までの間に345万7千人も減少する。第2次世界大戦のときの日本の犠牲者数が310万人だったことと比較するとその勢いがいかに大きいか想像がつくだろう。おそらく今の移民政策では到底追っつかないのは明らかだ。

「日本の今後を考えたときには、暗澹たる気持ちにならざるを得ない。アベノミクスの第一の矢である金融緩和は日本の株価を押し上げるとともに通貨の価値を円安に誘導した。—中略—これによって日本人の暮らしは良くなっているのだろうか。アベノミクスの恩恵を受けたのは一部のトレーダーや大企業だけだ」

最近のデーターで日銀の国債保有量は478.5兆円、ETFを含む金銭信託は27.1兆円これだけで総資産の89%を占める。一方負債の部で市中銀行から預かった当座預金残はすでに400兆円の大台を突破した。他方、引当金を含む総資産は8.4兆円しかない。市中銀行が日銀に当座預金をおいておくことに魅力を感じなくなれば短期金利を上げざるを得ない。現実には国債や金銭信託を買い続けるには当座預金の減少は致命傷となるからだ。金利を上げれば金利負担で日銀は債務超過になるだろう。財政法4条や日銀法5条の制約があるためそう簡単にはヘリマネも実行できないのだ。

「アベノミクスの第二の矢、つまり財政出動もひどいものだった。これは私には、日本を破壊しますと云う宣言にしか聞こえなかった。先進国で最悪レベルの財政赤字を抱え、国の借金が増え続ける中で、さらに無駄な公共事業に公費を費やそうとするのは正気の沙汰とは思えない。
安倍首相は素晴らしい人物には違いないと思うが、してきたことは、ほぼすべてが間違いだ。安倍首相が借金に目をつぶっているのは、最終的に借金を返さなくてはならない局面になったときには、自分がこの世にはいないからだろう。自分や、自からの体制を維持することが彼の行動原理であり、そのツケを払うのは日本の若者だ。」
「現場の成長の芽を育てる方向と逆を走り、こともあろうに古い人達を守ろうとした結果今の惨状があると私はみている。破産を免れた古い人間たちは、既得権益を守るために自民党を支持し続ける。そして自民党は新しい活力ある若者や外国人よりも古い人間たちを守ろうとする。この状況が続けば、いずれ日本全体が衰退し、誰もが貧しくなっていくことだろう。」

さらに、「東京オリンピックは日本の衰退を早める」とも云っている。
「現状の少子高齢化と巨額の長期債務残高を放置しても破綻しない”ニューエコノミー”など存在しないのだ」

これはMMTに対する痛烈な批判だと受けとった。

最後に前向きの提言もしっかり言っている。
「金融業界で私は大儲けすることが出来たが、そうした時代は終わろうとしている。1958年には世界に5000人ほどしかいなかったMBAホルダーは、今やアメリカだけでも5万人を超える。金融業界はかってなく競争が激しくなっているのだ。現代に生きる若者はMBAをとるよりもトラクターの運転を習ったほうがよほどいいと思う。これは冗談ではない。金融業界の時代が過ぎたあとは、何が起こるだろうか。これも歴史が明らかにしてくれる。実物経済の時代が来るのだ。金融業界が儲かる時代は終わりつつある。木が天まで伸びることはない」
「人の考えに流されず、徹底的なリサーチをおこない、自らの頭で考える。こんなシンプルなことを心がけるだけでも、あなたは多くの人より成功を収めることができるのだから」

一番気になったのは治安の悪化にいかに自己防衛するかだ。ジム・ロジャーズは「30年後を予測し日本では今より多くの犯罪が起きているだろう」と予測している。これに続き、「現代の日本人が将来世代にまわしているツケを払う段階になれば、国民全体が不満を覚え社会不安が募るものだ。50年後には、日本政府に対する反乱が国内で起きている可能性さえある。社会不安は、犯罪や暴動、革命と言った形で明らかになる。日本人は違う、暴動など起きないと言いたいかもしれないが、これは歴史上どこの国でも起きている社会現象なのだ。」

30年後、50年後はジム・ロジャーズは日本に住んでいるわけではないので、少しばかり割引きすぎるのではないかと思う。この問題は10年で起こりうると私は考えている。その理由は日本の極左勢力は未だに健在だからだ。暴力団と同じくフロント企業の影に隠れて裏からコントロールする技術を獲得しているからだ。選挙という合法手段で勢力拡大中だ。地方選挙を含む1000を数える選挙プランナーとして成果を上げ資金力もつけている。”選挙は革命のための最適な手段だ”と堂々と述べている。彼らは革命の旗を降ろしてはいない。その時期を虎視眈々と狙っているのだ。日本は、中道穏健勢力が弱すぎる。ポピュリズムに走り、右か左に極端にブレる恐れがあるのだ。

「防衛費の増加は過ちの最たるものだ。今や、日本は450億ドルを超える防衛費を支出しているが、防衛費をいくら増やしても、日本の将来のためにはなんの役にも立たず、むしろ国民の生活が悪くなるばかりだろう。すでに問題を抱えている日本において、防衛費を始めとする支出を削減することもなく、さらに増税(消費税)を実施するのであれば、日本人は子供を増やそうとする気をますます失くしてしまうだろう。これが行き着く先は国の破滅だ」

ジム・ロジャーズが平和主義者だということは驚きだった。今や投資家の立場は昔と大きく変わってきたのだと思われる。全体を通じて言えることはジム・ロジャーズが、日本の野党議員が云うことを代弁しているように感じたのだ。それだけ日本の野党議員の多くが、危機感の欠如で茹でガエル化しているのではないかと痛切に思ったのだ。

社会

テクノロジーの急速な発展は私達の社会に明るい未来を約束しているかのように見えます。

キャッシュレスの将来の姿を予測するには、その進化の歴史をたどる必要がああります。
クレジットカードの時代から電子マネー、モバイルペイメント、顔認証決済・音声決済・IoT決済と進化を遂げたのです。そして、第4世代の決済はすでに中国で実現しつつあります。アリババの本拠地である杭州のスマートシティーで体験できます。

キャッシュレス化は他の技術革新と連動して展開されます。EVとの協調、キャッシュレス化・無人化・自動化・シェアリング化・サービス化との連動です。

日本で少子高齢化が進み構造的に人手不足が進む中では、自動化による無人化に向かうのが当然の流れです。PEST分析=政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)の視点で分析すると、サステナビリティー(持続可能性)やシェアリングと云うキーワードが明るい未来を想像させてくれます。

投資の世界でも環境の変化を背景に「サステナブルでない会社」は投資の対象から外されるといった動きが投資家の間に出てきつつあるのです。

シェアリングはキャッシュレス化、自動化と結びつき、発展してきております。この方向も環境の変化に対応し、過去の大量生産・大量消費が持続できなくなってきたことの現れです。

銀行の「担保主義」のレガシーは、新興フィンテック企業のデーターに基づく本質的な審査(信用データーをビッグデーターとして蓄積)に負けるのは当然の成り行きです。「時間がかからない」「自動でしてくれる」「取引をしていることを意識しないで済む」など圧倒的な優位性があるのです。

リーママンショックで多くの企業が退場したのですが、ただ退場しただけで退場してしまえば失敗の原因を活かすことにはつながらなかったのです。

前回もご紹介したように、日銀の7月10日の営業毎旬報告をみても国債保有高は478.5兆円、ETFを含む金銭信託は27.1兆円、でリスク資産が総資産に占める割合が、総資産566,6兆円に対し89%も占める現状。しかも当座預金が403.2兆円も「ブタ積み」となり産業の復興に寄与していない現状。これらはどう考えても健全な金融・財政状況ではないでしょう。

アベノミクスの根幹は2013年の「量的質的金融緩和政策」にあります。その系譜をたどればアベノミクスはすでに行き詰まっている事がわかります。

2014年10月には、国債の買取目標額を年間80兆円から100兆円にするとともに、ETF(上場投資信託)などのリスク資産の購入額を1兆円から3兆円に引き上げました。この効果は円安株高の景気を底上げする効果を生みました。

しかし、2015年4月に消費税増税を堺に実質消費が落ち込みインフレ期待値が下がり続けたのです。目標のインフレ率2%が達成できないと見るや、2016年1月29日に日本銀行はマイナス金利付き量的・質的金融政策に踏み切ったのです。

さらに、2016年9月21日には、金融緩和の効果を一層強化するため「長短金利操作付き量的・質的金融緩和政策」と称し、長短金利を操作目標に加える「イールドカーブ・コントロール」及び消費者物価を安定的に2%を超えるまで微調整を行うことになったのです。

これについては黒田総裁は今年の4月の記者会見で「イールドカーブ・コントロール」は専門的で大変難しく苦労していることを打ち明けました。

前年比2%増の物価目標は何度も達成時期の先送りを余儀なくされ、金融政策は迷路にはまり込んだのです。正に出口を無くした状況に直面し苦悩しているというのが、偽らざる認識なのです。

この状況の中でどうして反緊縮のバラマキができるのでしょう?
MMTは米国ではすでにバニー・サンダースが距離を置き始めています。日本の状況は米国より深刻です。この状況でMMTを振りかざすのは現状無視としか云えません。今、MMTを根拠としたポピュリズムの流行を警戒する必要があるでしょう。

金融緩和の行き詰まりと金融破綻の問題はどこにあったのでしょうか?
「バブルの物語」の著者、経済学者ジョン・ケネス・ガルブレイスは次のように語っております。「新規のものが生まれているように見えても本質は何も変わってはいない」バブルの絶頂期にあっては、優れたプレーヤーであってもそれをバブルだとは見抜けないのです。

結局のところ、リーマンショックまでの米国の金融産業は「金融が価値を生み出す」と信じ込み、金融とは本来、単体ではなく、様々な産業と結びつき価値を生み出す機能だということを忘れていたのです。

折角、テクノロジーの発展が明るい未来を約束しているにもかかわらず、日本においては、金融政策や産業政策がこれを妨げているのです。

アマゾン・ゴーの画期的実験

アマゾン・ゴーでの買い物客は自動改札機のようなゲートにスマホをかざしてアマゾンIDを認識させて入店し、あとは陳列棚から商品をピックアップするだけ。そのまま店を出ると自動的に決済され、スマホにレシートが送信されるという仕組みです。

アマゾンのサービスは買い物をしていることを意識することもないほどに私達の生活に浸透しきろうとしているのです。そしてアマゾンの試みは企業側の生産性向上や人で不足解消の論理からではなく、あくまでも顧客の満足度向上のためであるということです。

この実験の目的は
1.人が人間として持っている本能や欲望に応えること
2.テクノロジーの進化により高度化する「問題」や「ストレス」を解決すること
3.「察する」テクノロジー
4.顧客に取引をしていることを感じさせないことです。

「顧客第一主義に徹する」「人とスキルに投資する」「垂直統合から水平統合へ」
顧客が潜在意識レベルにおいても自然で快適であるようにすることを目的としている。そのためには、顧客が「自分に対応している社員が自然で快適に仕事をしている」と感じなければ、優れたエクスペリエンスを得られていると感じることは困難なのです。

以前、観光立国が叫ばれた日本において「観光は自然の景観だけが資源ではない。そこで暮らす人々の安定した生活、精神的豊かさや土着の文化なども有力な観光資源となることを忘れてはいけない」と云われました。

ケヴィン・ケリー(米国のテクノロジー評論家)は著書の中で次のように述べています

「これからの30年を考えると、最大の富の源泉は、最も面白い文化的イノベーションの延長線にある。新しいシェアの形を見つけた会社が、最速で最も評価されるだろう。シェア可能なものは、思想や感情、金銭、健康、時間など何でも、正しい条件が揃い、ちゃんとした恩恵があればシェアされるだろう」と述べています。

テクノロジーの進化により、あらゆる個人のスキルがおカネに変えられるようになります。そして、シニアの人たちの年齢や経験を積み重ねたからこそ持っている貴重なスキルもその中に入るでしょう。

そして、「新たな社会における、新たな価値や価値観を表象する、新たな金融システムが現れ、普通の人が家の中で持っている普通の品物など、流動性が低いもの、人が持っている様々なスキルなどが、新しい資産となるだろう」

結び:トマ・ピケティーのr>d、金融資本主義の矛盾はテクノロジが解決するかもしれない。

このような視点がテクノロジーの発展に伴い金融の世界でも「価値観の変革」と云う形で現れてくるのでしょう。ただしこれには条件があります先ず政治が変わらなければなりません。競争社会、格差社会、弱者切り捨てが続く限りは、テクノロジーだけでは救い道はありません。次世代型テクノロジーは価値観の変化を伴うからです。

政治も産業も根本的に変わる必要があるのです。垂直管理から水平管理への移行、人間性無視の管理体制から人の能力をフルに引き出す人間尊重の体制への移行が必須条件となります。

もちろん科学技術の発展はこの変革の必然性を強力に押し上げる力を持っております。しかし、日本の現政治体制はあまりにも前近代的で、これの阻害要因になりかねないのです。日本の悲劇はここにあります。野党議員の多くはテクノロジーについても金融経済についても無知です。逆に権力がテクノロジーを悪用して、格差拡大・弱肉強食の世界を維持強化する恐れすらあります。

次回は、これを突破して新しいテクノロジーの恩恵を生活者にもたらすのはどうするべきかについて、世界的に有名な投資家ジム・ロジャーズの最新著作の紹介をまじえてご紹介したいと思っております。