経済

最新の日銀のバランスシートを掲載した。注目ポイントは資産では国債、ETFを含む金銭信託、負債では当座預金だ。この中でも「当座預金」に最も注目している。今後予測される金融恐慌の兆候を知るカギとなるのが「当座預金」だ。

日銀の当座預金には「法定準備金」として銀行が日銀当座預金に積み立てた金額と、それを超える「超過準備額」から成りたっっている。その割合は日銀当座預金残高が急膨張しているため、「法定準備金」に相当する金額が当座預金全体に占めるの割合は低下し続け、2017年3月末には4.3%となっている。法定準備額にはマイナス金利を適用し超過準備額には0.1%の金利を付けることが原則となっている。

何故「当座預金」に注目するかと云えば、日銀は近年、特に国債やETFなどを市中銀行から買い入れる原資を「当座預金」に依存してきたからだ。当座預金が減少すれば日銀の金融政策(超金融緩和)が維持できなくなるのだ。仮に市中銀行が当座預金を切り崩すことになれば、たちまち日銀の金融政策は破綻してしまう。したがって「付利」(超過準備額に対する金利)は下げられないのだ。

日銀はまことに危ない橋を渡っている。イールドカーブ・コントロール(長短金利操作、末尾の「注」参照)でいかに苦労しているか、黒田総裁は4月の記者会見で正直にも明かしている。

野口 悠紀雄氏2017年6月の記事

「日本銀行が保有する国債の銘柄別残高」という統計には、額面ベースの数字がある。この額は、380兆円(6月2日)だ。それに対して、「営業毎旬報告」には、簿価が記載されている。この額は、390兆円だ(5月31日)。両者の差は10兆円だ。
だから、償還まで保有すると10兆円の損失が発生する。これは、確実に発生する損失だ。

日銀当座預金(金融機関が日銀に預ける当座預金)に金利をつける必要がある。この当座預金の超過準備に対して日銀がつける金利を「付利」と呼ぶ。先に、金利が上昇しないと実質金利がマイナスになると述べた。物価が上昇している局面で実質金利がマイナスになると、土地などに対する投機を引き起こしてしまう。だから、短期金利も最低2%程度に引き上げる必要がある。

物価上昇目標にリンクして、短期金利を2%にするためには、現在のマイナス金利を解除するだけでなく、超過準備に対して最低2%の金利をつける、つまり付利を2%にする必要がある。なぜなら、金利が低いままだと、当座預金が取り崩されて貸し出しに回されてしまい、投機資金を供給することになるからだ。
そこで、当座預金への付利を2%にしたとしよう。他方で、保有国債の利回りは不変だ。日銀の16年度決算によれば、保有長期国債の運用利回りは、0・38%だ。だから、1・62 %だけ逆ザヤになってしまう。これに当座預金残高約340兆円をかけると、年間約5・5兆円の赤字となる。

日銀は、6月16日の金融政策決定会合で、当面の金融政策を「現状維持」とすることを決めた。長期金利の操作目標は「ゼロ%程度」で変えず、当座預金付利もマイナス0・1%で据え置いた。国債購入のペースも従来通りの「年約80兆円をめど」とした。

そして2%のインフレ目標を変更していない。その目標が達成できるとは考えにくいので、このままズルズルと緩和政策が続き、当座預金残高が増えていくだろう。そして、国債の高値購入により、日銀保有国債の簿価と償還額(額面値)との差も拡大していくだろう。

そうなれば、想定される損失はさらに膨れ上がり、金融緩和からの脱却はさらに難しくなる。いま必要なのは、できるだけ早く脱却の準備を開始することだ。(引用おわり)

以上は2年前の記事だ。日銀の営業毎旬報告で確認していただく通り、今年6月30日現在で国債保有は476.3兆円に膨らみ、ETFを含む金銭信託は27.5兆円に及んでいる。当座預金はついに400兆円の大台を突破して410.6兆円(10年前の33倍)となり、これを減額することは至難の業だ。
野口氏の「このままズルズルと緩和政策が続き、当座預金残高が増えていくだろう」は見事に的中していた。

問題はこれにとどまらず、企業倒産激増の危機など、次の大きなテーマに迫りたい。

経済週刊誌の各社が一斉に企業倒産の危機を報じ始めた。

金融機関の倒産を報ずる経済誌が多く見られたが、週刊ダイヤモンドは「最新版倒産危険度ランキング」を特集しているのでこれを紹介する。

「内閣府が発表する景気動向指数の基調判断が6年ぶりに「悪化」に転じた。米中貿易摩擦や人で不足、経営者の高齢化、融資の厳格化….。企業の倒産リスクが高まっている。本誌は倒産危険度特集を6年ぶりに復活させた。過去の特集でランクインした企業の多くは市場から姿を消している。本誌は上場企業3665社の倒産危険度を総点検。最新の倒産動向に迫った。」これは冒頭のメッセージだ。

大倒産時代の足音が近づいている。帝国データーバンクの内藤修・横浜支店情報部長は、「今年は企業倒産が増加する年になる。秋以降がターニングポイント」と分析する。
更に横浜銀行と東日本銀行を傘下に持つコンコルディア・フィナンシャルグループの川村健一社長は「リーマンショックから10年もたつ。本格的に回復できない企業はそろそろ幕引きかもしれない」と発言し、融資先を震え上がらせた。

注目点は週間ダイアモンドが倒産危険度上位423社の評価基準だ。主な基準は「Zスコア」である。米国の経済学者、エドワード・アルトマン氏が1968年に考案したもので短期的な資金繰り圧迫度、資産効率、利益の蓄積など5つの指標の合計値により算出される。
この基準に照らし、上場企業の423社が危険企業としてランクインしたのだ。こんなことは空前絶後と言えるのではないか。

この中には地域独占の電力会社9社、交通インフラのうち電鉄会社8社、その他旧財閥系の多数があげられている。電力では独占にもかかわらず経営状況が悪いのは何故だろうと疑問を持つと同時に、将来電気料金の値上げが懸念された。電鉄会社は人口減少に伴い路線の廃止が心配だ。不動産大手を含む建物など関連業者の経営不振は近い将来、不動産不況が懸念される。自動車産業では日産自動車が唯一ランクインされている。

過去の経済恐慌を調べるとその目立った前兆には、やはり経済誌の倒産予測のオンパレードが確認できる。これは不吉な前兆でもある。週刊誌は確実な予測が成立すると、他に先駆けて報道することが売上を上げることにつながるのだ。

注:イールドカーブ・コントロールについて

2019年7月9日(火)日本経済新聞
日銀が導入した新たな枠組みの柱となるのが、長期金利を誘導目標に加える「イールドカーブ(利回り曲線)・コントロール」と呼ばれる手法だ。
イールドカーブとは期間の短い金利と長い金利をつないだ曲線を指す。

ふつうは期間の短い金利ほど低く、長い金利ほど高いのでイールドカーブは右肩上がりとなる。しかし、日銀の異次元緩和で期間の長い金利も大幅に低下したため、いまは平たんになっている。
日銀の新たな枠組みは1年以下の短期と期間10年の長期という2つの金利を操作して、イールドカーブを立たせるのが狙いだ。

短期の金利については、金融機関が保有する日本銀行当座預金の一部に年マイナス0.1%のマイナス金利を適用して操作する。一方、新たに対象となった長期金利は、代表となる10年物国債の利回りがおおむねゼロ%程度で推移するように誘導する。
(以上引用おわり)

実際のオペレーションとしては、日銀の保有する長期国債を売却したり、日銀が市中の長期国債を購入したりしてイールドカーブコントロールを行うことが想定されます。

イールドカーブコントロールがうまくいかないと何が起こるのでしょう?。
日銀がこれまで支えていた株高のミニバブルが弾けてしまうことが十分考えられます。すでに、日経225型のETFを日銀が買いすぎてしまったことから、日経平均株価の下支えが難しくなってきています。

肝心のイールドカーブコントロールの失敗については、長期的には株式市場だけでなく為替市場へも大きな影響を及ぼすことが確実ですが、リスク回避による円高になるのか、あるいは日本国債への信頼が剥げ落ちて「日本売り」の悪い円安になるのか、現時点では見当も付きません。

訂正:地域独占電力会社はJ-powerなどを除き9社に訂正いたしました。

政治

1993年に発表されたサミエル・P・ハンチントンの「文明の衝突」が今、注目をされています。
何故だろうと疑問を持って、本棚の中から古く変色した表紙を探し出し(20年前の夏に傍線を引いた部分を)拾い読みして、記憶が若干よみがえったところです。

今から26年前のハンチントンの予測が本当に当たっているのか疑問を持ちながら、探ってみた結果、その慧眼に驚きを覚えたのです。
当然当たっているところとそうでない部分はあることは承知の上で、この論文が現代への示唆となる部分だけを拾い上げてご紹介いたします。

偶然、白井聡氏の「永続敗戦論」を読み始めたところなので、それとの関連性も述べてみたいと思います。

ハンチントンの論文にはは次のように表現されています。

日本の哲学者梅原猛が示唆するには「マルクス主義が全く失敗に終わったこと—そしてソ連が劇的な解体を遂げたことは、近代性の主流だった西欧リベラリズムが崩壊する前兆に過ぎない。マルクス主義に関わる選択肢となり、歴史のにおける支配的なイデオロギーになるどころか、リベラリズムは次に倒れるドミノになるだろう」と云う。

世界中の国の人々が自分たちの特性を文化によって規定している時代にあっって文化的な核を持たず政治的心情だけで規定された社会に安住できる場所があるだろうか? 政治的原則は、永続的な社会を築く基礎としては不安定である。

文化が重要な意味を持つ文明世界にあって、アメリカはイデオロギーが意味を持っていた消えゆく西欧の異常な残存物に過ぎなくなるかもしれない。政治的心情と西欧文明を拒否することは、われわれが知っていたアメリカ合衆国の終焉を意味する。(以上原文のまま引用)

■ 更に、世界は東洋文明と西欧文明の衝突が起こり、東洋の覇権は中国に移り、世界の覇権国だったアメリカとの戦いが避けられないと予測しています。しかもその戦いは東洋文明を代表する中国の勝利に終わるだろうと予測しているのです。

加えて云えば、意外なことに日本は中国側に加担せざるを得ない立場だろうとも記しています。つまりは、アメリカの政治イデオロギーが世界覇権の座から転落すると予測しているのです。

「文明の衝突」の将来予測はこれだけではありません。イスラム圏との深刻な対立、先進国への移民が争点となり国内の分裂を招くこと、世界の多極化・覇権の変動など具体的に現在の状況を言い当てています。

■ 今年5月末、欧米の超エリートたちが集まって、ビルダーバーグ会議がモントリオールで開催されました。この会議は秘密会議であっったため報道されることはなかったのですが、米ポンペイオ国務長官の宣言があまりにも戦闘的であったため、不満を持った出席者からその発言が漏れてきたのです。

ポンペイオ国務長官は次のように発言したのです。「米政府は、対中100年戦争を決定たことを宣言し同盟国とともに戦う」という内容でした。
もちろん貿易戦争を前提とした冷戦にとどまることが期待されますが、「戦い」の内容については伝えられていません。昨年10月にはペンス副大統領が同様の発言をし、報道機関は単なる脅しではないかと受け流していたのですが、いよいよ本気で長期戦を覚悟したのでしょう。しかし、100年はオーバーでせいぜい5年~10年のことではないかと観測されています。(田中宇の国際ニュース解説より)

■ 一方白井聡氏の「永久敗戦論」では次のように解説されております。第2次世界大戦で日本は負けているのに負けた事実を認めたくないので、日本人はそのことを曖昧にする。これが結果として永久的に負け続けていることになるのです。更に、米ソ冷戦時代には日本が対ソ防衛ラインとして重要な位置を占めることになったので日本はアメリカから特に優遇されました。つまりお世話になったのです。感謝が愛になり対米従属が当然だという雰囲気が作り出されたのです。

問題は冷戦が終わってもこの傾向が変えられなかったことです。日米関係に変化がなければこの傾向は変わりませんが、トランプ大統領が貿易戦争を同盟国にまで拡大し日本の国益を損なう事態が現れると、日本政府は今までになかった窮地に直面しました。

■ 特に米中貿易戦争のあおりを受け、自国の貿易に損失が生じた場合対米従属を捨てざるを得ない状況に追い込まれます。ハンチントンはこの状況を見事に言い当て、日本は対米従属から離れて、中国圏あるいは東洋文化圏に逃げ込むと予測しているのです。

今、日本は貿易高がアメリカを抜き中国が第一の貿易相手国となっていることから、日本政府は財界からは対中貿易が犠牲にならないよう強く要望を受け、他方アメリカとの関係・対米従属をやめるかどうか選択を迫られ、板挟みの状況となっているのです。

■ サミエル・ハンチントンの「文明の衝突」は、経済的理由ばかりでなく、明白に文明の同一性からも日本は中国圏にいかざるを得ないことを示唆しております。ハンチントンがもし現在の米中関係を知ったなら、更にこの示唆が強くなり断言に至るだろうと云うのがこの本を読んだ感想です。26年前にハンチントンがこんな予測をしたことは、決して占星術的予測ではなく、文明の衝突が世界の覇権を変えるという科学的な分析が背景にあったからです。

日本人には中国嫌いの風潮が根付いていることは承知しておりますが、ハンチントンの時代には中国に対して好きも嫌いもなかったのです。当時は中国が世界の脅威になるほど強力でなかったからです。世界の覇権が激動する現在においては、判断基準を「文明の衝突」に移す必要性を強く感じます。

そのうえで現在の状況を見れば、国の衰退を防ぐためにも、「対米従属が唯一のレゾンデートルではなくなってきていること」を自覚しなければなりません。